明日へ行く電車 後半


いつの間にか眠っていた私は、隣の椅子がへこむ気配で目を覚ました。私の隣には知らない、サラリーマン風のおじさんが座っていた。周りを見渡すと、座席は結構埋まっていた。サラリーマンだとか、OLだとか、働いていそうな人ばかり。学生は私の他に一人か二人しか見あたらない。私を乗せた明日への電車は、夕方になっても走っていた。
外の景色はきれいだった。夏だから日が長く、もう6時を過ぎているのに夕焼けが始まったところだった。少しずつ夕日が沈んで行って、少しずつ夕焼けが広がっていって、電車は少しずつ都会の中へ吸い込まれていった。夕日のきらめきがまぶしい。私が外の景色を見ている間にお客さんは少しずつ増えてきた。もう座席は全部埋まり、吊革にぶら下がっている人もたくさんいた。学生もさっきまでと違って増えていた。
大都会の真ん中で電車のドアが開いて、たくさんの人が乗り込んできた。私はボストンを膝の上でぎゅっと抱きしめる。向かいに見えていた窓はほかの人に隠れて見えなくなっていた。みんな、少しでも時間を進めたくて、この電車に乗ってくるんだ。
 私は少しずつ減っていく人を見ていた。みんな疲れた顔をして電車から降りていく。電車の走る線路はまた少しずつ都会から離れて行って、そんな駅に降り立った人たちの顔が輝くのを私は見つめる。どうしてそんなにうれしそうに笑うんだろう。私は考える。
人の少なくなった車内で私は、ボストンから今度はパンを取り出して、夜ご飯に食べた。時間はもう10時に近くなっていた。ペットボトルも取り出して、ごくりごくりと飲む。これで2本が空になった。そのあとどうしようか少し迷って、結局また日記帳を取り出した。明るいうちに2週間の空白は埋め終わったから、次は明日の予定だ。あした、何がしたいだろう。ペンを握る手に力が入る。明日の予定を考える日記はもう、ずいぶんと長い間書いてなかった。

 次は、「明日」です。私は目をこする。いつの間にかまた眠ってしまっていたみたいだ。周りにはほかのお客さんがいなくなっていた。私はまた一人ぼっち。もう一度あのアナウンスが聞こえて、次が明日です、と言う。はっ、と思って腕時計を見た。もう12時を過ぎていた。もう「明日」になっちゃったのに、この電車は「明日」に向かっているんだ。けれど、よく考えたら、もう「今日」になってしまったのなら、それは「明日」ではない。追いついた、と思ったらそれはもう「今日」で、「明日」はまた遠ざかる。
 なら、この「明日」行きの電車はどこに向かっているんだろう。ついてしまえばそこは「明日」ではない。だったら、この電車は「明日」に着くことなんてできないはずだ。終着駅が存在しない。
早く電車から降りなきゃ、と思った。いつまでも終点に着くことのできない電車に乗り続けていることなんて、したくない。でも、もう遅かった。次は「明日」だってアナウンスが言ったばっかりだ。もうほかの駅で降りることはできないのだ。もう存在しない終着点に向かうことしかできないのだ。途中下車はできなくなってしまった。
 明日の日記にさっき私は何て書いただろう。あぁ、明日になんて行きたくない。もっと違う明日があれば良いのに。今までと違う明日になる。間違いなく、私は日常生活に戻れない。


製作上の注意:新パソコンになって一つ目の話だ!これは保険か何かのCMに「明日」って書いてある電車が出てきて、この話のような考えが常々頭の中にあるもので、うわ怖っ!思ってたたたっと書いたものです。んー。
一人暮らしは怖い話を書くのには向いていません。でも私は怖い話書くの好きです、たぶん。今日は帰省して、実家に一人きりとはいえ犬が一緒にいるもので、あんまり怖くありません。まぁ犬さんは90%くらい寝てますが。
では、そろそろ夜も遅いので、寝ようと思います。お犬様もさっきから時々目を開けては「まだ寝てないの、そう」と訴えています。
では、おやすみなさい。またよろしくお願いします。
2010.7.30.26:14.


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