僕の名前 5


 さて、僕達兄弟はそれぞれ片手にすくった金魚を入れた袋をぶら下げ、もう片方の手はねぇさんに引かれて今度はりんご飴の屋台に並んでいた。屋台に並んでいる間にも色とりどりの綺麗な浴衣に身を包んだ姿を沢山見た。どの色も今までの祭りでは見たことが無かったような色なのに、それなのに自然な色。決して眼がちかちかしたりしないような、どこか優しい色合い。そんな衣装に身を包んで、みんなそれぞれ楽しそうに歩いている。どうやら、それぞれ立ち止まって屋台に寄っていくけれど、ひとつの方向へ向かって進んでいる様だった。
「ねぇさん、みんなはどこへ行くんですか?」
僕は見上げて聞いた。するとねぇさんはにんまりと笑って言う。
「昨日、長の二人目の息子さんがお生まれになったんだよ。それで今日は祭りだ。みんなそれぞれ祝いの品を持って行くんだよ」
「おさって誰?」
「長かい?長はこの世界を取りまとめている…、一番強い力を持っているお方だねぇ」
「それって偉いってこと?」
そうだね、と言ってねぇさんはうなずいた。
「まぁ、そんなもんだよ」
そして僕と明は周りを良く見渡した。するとどうだろう、確かにみんな何かを大事そうに両手に持っている。
「どうしよう陽一、ぼく達は何にも持って来なかったよ?」
「本当だ。どうしよう」
僕達が手に持っている物といったら、出店でとった光魚の入った袋だけだった。その袋が風と雑踏で心寂しく揺れる。
「なぁに、心配する事は無いよ。大丈夫だよ」
ねぇさんは僕達兄弟の間に割って入って少しかがんで言った。
その時、どんっと強い音がして、ねぇさんがよろけた。
「おっとわりぃわりぃ、ちょっと強く叩きすぎちまったな」 立ち上がったねぇさんが振り向いたそこを見ると、体格の良い中年の男性が、いかにも親父と呼ばれそうな風貌と貫禄を漂わせて立っていた。
「おや、イシの親父じゃあないかい。全く、相変わらず容赦無いねぇ。痛いったらありゃしない」
「だから悪かったって」
そういってイシの親父はねぇさんの顔を覗き込んだが、でもねぇさんは言った言葉とは裏腹に笑っていた。まぁいつのもの事だから良いんだよと僕達二人に言う。
「おや、今日は見ない顔を連れているね」
そう言いながらイシの親父はしゃがみ込んで僕達二人の顔をよく見た。
「良く似た兄弟だな。仲は良いのかい?」
「はい。僕と明は他のどんな兄弟よりも仲が良いって良く言われます」
「ぼくはいつも陽一と一緒にいるから良く分からないや」
ははは、と言って豪快に笑う親父はぽんぽん、と明の背中を叩いた。
「それを仲が良いって言うんだよ」
そして立ち上がりねぇさんと何かを話していた。
「良い兄弟じゃねぇか。長も喜ぶな」
「だろう?最初に二人を見つけた時もしめたと思ったけど、仲の良い兄弟でそりゃ嬉しかったねぇ」
一体なぜ長は僕達兄弟で喜ぶのだろう。少し疑問に思ったが、イシの親父のごつごつした手で背中を叩かれると、その手が温かくて、何も悪い事は起らない様に思えた。
「早く行って長を喜ばして差し上げな」
そう言うとイシの親父は去っていった。


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