僕の名前 6


 その後も僕と明はねぇさんに連れられて道を進んで行った。少しずつ日が暮れて、屋台には明るい提灯が並ぶ様になっていった。夕方からとっぷり日が暮れるまで歩いて、クロのおばさんやノギの姉さん、ツネ坊ちゃんなどといったねぇさんの知り合いに会い、どうやらこの集落の長の二人目の息子が昨日誕生して、それで祭りらしい。どうやら祝いの品を渡しに行くらしい。という事は分かったが、それとは逆になぜ僕達兄弟は祝いの品を手に持っていないのに長の元へ向かうのか、さっぱり分からない。話しを聞けば聞くほど疑問である。本当は明とその事について話したかったが、いつも僕達の間にはねぇさんがいた。疑問は一行に解消されず、それで段々と不安になってきた。周りの屋台には綺麗な光の装飾が付けられていたけれど、綺麗だと思って見ていても不安は消えないで胸の中に残った。
 相変わらずねぇさんは僕達の手を引いて軽快に歩いていた。歩くたびに頭の高い位置で束ねた黒い髪の毛が揺れる。それがひらひらとして見る者を惑わすが、どこか綺麗だ。夜もすっかり更けてきた頃、ねぇさんが立ち止まってその華奢な指を一点に向けて指した。
「あれが長の家だよ」
それは神社の様な造りをした、けれどもっと沢山の色で塗られた建物だった。正面に大きな門が構えていて、その向こうに本殿が見える。壁は白を基調としているが、柱や屋根は赤に黒、緑に紫、黄色に青と極彩色が使われている事は暗い夜の中でも明らかだった。
「長は…神様なの?」
明が言った。
「でも、鳥居が無いから神社じゃないよ、明」
それを聞いてねぇさんはぷっと吹き出す。
「長は神様…ねぇ。面白い事を言う人間がいたもんだね、まったく。長は長だよ。そりゃあまぁあたしたちからしたら神様に近いかもしれないけどねぇ」
少し考えて続ける。
「長は一番力が強いから、この世界の姿を支えているんだよ。だから確かに世界は長次第。でもね、あたし達はみんな、自分がどんな格好をしていようとも不便はないんだよ」
そこできゅっとその切れ長の眼を細めて小声で言った。
「でもね、やっぱり神様みたいにそんな良いもんじゃあないんだよ」
どういう意味だろう。良く分からなかったが、深く考える前にねぇさんは先に進み始めてしまった。慌ててその後ろ姿を追う。一度明が転んだ。助け起こす時に気付いたが、いつの間にか地面が砂地に変わっていた。今までは草地や腐葉土の様な黒い土の道だったのに、今は白いさらさらとした細かい砂の道だった。そして助け起こした明と二人でねぇさんに追い着いた時、両脇に立ち並んでいた屋台が無くなっていた。代わりに、道の両脇には灯籠が並んでいた。


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