僕の名前 9


「オオキ、これは一体どういうことなんだ?」
長が声をかけてもねぇさんの笑いは納まらない。
「そうだ、人間の兄弟ももっとくつろいでくれないか?それじゃ私の方が恐縮してしまうさ」
長は笑い転げるねぇさんの手を取り立たせる。そして僕と明も立たされた。
「ほらほら、もう良いだろう?好い加減説明してくれないか?それとさ、普段はもっと気さくなのにさ、こういう時だけみんな改まるのはやめてくれないかな?」
長は困った顔をする。
「そうだねぇ」
ようやく落ち着いたねぇさんが大げさなリアクションで言った。
「でもこういう時くらいきっちりしておかないと格好もつかないだろう?」
「おいおい、それは言わないでくれるかな。それよりも、どういう話で私はこんなに怖がられていたんだ?」
先にねぇさんは長について説明してくれた。どうやら長はこの世界の統治者らしいけれど、その気さくな性格からみんなに好かれていて、良き相談役としてみんなをまとめているらしかった。だから普段はかしこまることなく、誰もが長としゃべる事が出来る。
「今日は祝いの祭りだし、知らない人間がいるから。いつもと違って少しは長らしく振る舞って貰おうと思ったのにねぇ」
笑うねぇさんは続ける。この大きなまるで神社のような家も実際には住んでいる訳ではなく、こういった祝い事の時だけ開かれる建物らしい。小さい頃はよくこの周りでかくれんぼをした、なんて言うから、普段はもっと沢山子ども達が集まって遊び場になるのかもしれない。
「それより、早く説明してくれるかな」
「しかしまぁ、みんなこうも上手く行くとは思ってもみなかったねぇ」
ねぇさんは今までの事を話してくれた。もともと長は人間びいきだから、祝いの席に人間が来てくれたら、と思っていたらしい。そんな時に丁度良く、僕と明を見つけた。これは連れて行くしかない、と思ったが、ただ連れて行くだけでは面白くない。どうせなら長もびっくりさせてやろう。という事で、ねぇさんは直接は言わなかったけれど、間接的に伝えることで、僕と明に自分達はねぇさんの祝いの品であると思いこませた。これはねぇさんの知り合い達も悪ノリしてくれて、会話の一部にわざとそんな話を盛り込んだりしてくれたらしい。してくれたらしい、おかげで僕達はすっかり怯えてしまったのだけれど。
「そうだ、でも僕達はやっぱり祝いの品を持たないで来てしまいました」
「いいや、良いんだよ。人間がここまで来てくれたこと自体が嬉しいから。それに君達は、私の息子と同じで二人兄弟ときている」
そう言って、長は今度こそ僕達の頭をなでた。ひんやりと冷たい風も吹いているが、生暖かい風も吹いている。これがなぜか先ほどまでと違って体にまとわりつかない。
「しかも仲の良い兄弟ときた。何だか息子の将来にも期待が持てそうじゃないか」
仲の良い兄弟。確かに良く言われるけれど、そんなに長が喜ぶとは思っていなかった。
「ねぇさん、ねぇさんはどうするつもりだったの?」
明が聞いた。


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