満月の夜に 後半


 夜中に家を抜け出して、少し離れたコンビニに買い物に歩く。わざと遠いほうのコンビニに向かう。近いほうの店じゃ目的の物が売っていないはずだ、とか誰にともなく言い訳をして。足音は堅いヒールの音。夜中の住宅地ではどこまでも響き渡る。途中、猫が道を横切っていく。良かった、全身黒い猫じゃなかった、なんてどうでも良い事を思う。
 そう、世の中の大抵のことはどうでも良い事なのだ。それなのになぜか今夜は、遠いほうのコンビニへと向かう。なぜだろう。面倒くさいだけじゃないのか。そして、世の中の全てが面倒くさいという、重要な問題について考える。これは面倒くさくないのか。世の中は矛盾であふれている。
 面倒くさいと思いながらも考えることをやめることは出来ないし、自分の欲望に背くことも出来ない。この欲望はどこから来てどこへ行くのか。出来ることなら、あの月へ吸い込まれてしまいたい、あの真っ白で少し遠い月へ。

 にじんだ景色を拭い、空を見上げた。空で月が笑っている様な気がした。笑いたければ笑えば良い、こんな情けない奴のことなんて。
 この口は思った事を言わない。本当の気持ちなんて語ろうとしない。その代わりに、人を傷つける刃を放つことが出来る。だから出来ることならば謝りたいのだけれど、それも叶わない。謝罪の言葉と同時に、この口はまた刃を放つだろう。
 本当は大切にしたい。それでも、関わることさえ出来ない。それをしようとすれば、また新たな傷を付けてしまうだろう。傍にいることさえ叶わない。会うことさえ叶わない。
 こんなに苦しい思いをするなんて思ってもみなかった。長い付き合いだから油断していた。理解ってくれるものだとばかり、勝手に思っていた。あまりにも浅はかで、自分の事しか見えていなかった。
 だから空の丸い月、ぜひ笑って欲しい。その美しい光で、この醜い心を射抜いてくれるなら、なおさら良い。


製作上の注意:久しぶりに文章を書きました。今回は「満月の夜に」ということで、それぞれの文字にあてたごくごく短い話の連続になっています。あまりに短いので共通点は満月だけになってしまいましたが。まぁなんと言いますか、本当は「満月」の二文字でもう少し長い文章二つにしたかったです。でもあまりにも文章を書くのが久しぶり過ぎて「満」がやたら短くなってしまい、仕方ないので数だけ増やした次第です。
 案外暗い話にならなくて良かったです。  では、また今後もよろしくお願いします。
  110912.27:51.


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