物書きの性 4

 春は別れの季節である。
 一人の少女が空港へ向かうバスの中、昨日友達に渡した自分で書いた小説のことを考えていた。少女は今日、地方の大学へ進学するために旅立つ。友達はわざわざ空港まで見送りに来てくれると言うことで、だから昨日かき立ての小説を手渡した。昨日のうちに読んで、今日感想を添えて返すという約束だ。
 少女が小説を書くようになったのはいつの頃だったのだろうか。はじめのうちは文章ではなく、言葉を連ねて並べる、詩、の様なものを書いていた。しかしそのうちに段々と字数が増え、文章となり、それも長くなり小説という形を取るに至った。高校では同じ様に文章を書く友達に恵まれ、その仲間同士で互いの文章に関して意見も交換するようになった。その顔ぶれを思い出してみて、少女は小さくため息をつく。
 みんなもうお別れだ。全然違う進路に進むのだ。住む地方もばらばら、やりたいこともばらばら。いつでも連絡を取ろうねと約束はしたけれど、実際には互いに忙しくて無理になるだろう事は簡単に想像できた。寂しい。それに、今までのように自作の小説に関して意見を交わす事も無くなってしまうに違いない。そうなればどうすれば良いのだろう。いくら作家になる気は無いとは言えども、文章は誰かに読ませる為に書くものである。それをしまっておくなんて。
 少女の小説は難しくて評判だった。少女自身はややこしい構成をした小説が書きたいだけなのだが、なぜかいつの間にか難しい思想が入り込んでしまい、良く分からないものに仕上がる。自作の小説の中に主人公のフリーライター書いた小説に対して恋人の評価が入る場面が有るのだが、その「面白いけど難しいし一般受けはしない」という言葉は彼女自身がいつも言われている事なのだ。そんな小説を好んで読んでくれるような友達は出来るだろうか。

 春は別れの季節である。と同時に出会いの季節でもある。
 空港で待っているであろう彼女と出会ったのは三年前の春の事だった。それを思い出して彼女は少し安心した。友達は作れるだろう。それが小説を読むような友達では無くても、それでも仲の良い友達なら今までも沢山いた。だからきっと大丈夫だ。少女はバスの窓に映る自分にうなずいた。
 そう言えば、昨日友達に渡した小説は運命について、運命か何かそれに近いものについての小説だったが、そんなものは本当に存在するのだろうか。少し考えてみて彼女は恐ろしくなった。そんなもの、有るはずがない。誰かが自分の人生を書いているだなんて。小説じゃあるまいし。それよりも昨日はろくに手直しもせずに書き終わると同時に手渡してしまったが、ちゃんと構成は上手く出来ていただろうか。そんな事を止めどなく少女は考える。
 友達は以前少女に言った。
「良くこんな複雑な構成考えるね。面倒臭くないの?」
それにちゃんと答えていなかったかもしれない。今回の話はちゃんと繋がっているのだ。そうなるように考えた。考えている時はとにかく楽しかった。そうだ、この作業は面倒臭い何てことは無く、むしろ楽しい。それがしたくて小説を書いているといても過言では無いと少女は思っている。そのことを飛行機に搭乗する前に伝えなくてはと胸に刻む。
 空港が見えてきた。少女の事を待っているであろう。友達の姿を思い浮かべて、良い友達が出来て良かったと心から思った。まさかこんなちっぽけな自分を早朝から空港まで見送りに来てくれるような友達がもてるとは思ってもみなかった。

   少女はバスから足を踏み出す。友達にさよならとありがとうを言うために。
 少女は飛行機から脚を踏み出す。新しい出会いを求めるために。
 そしてどこかで紙の上を走る鉛筆の音を聞いた様な気がした。



*○作注:こんばんは。何か暇だと言ったら何か書けと昨日電話で言われたので書いて見ました。本当はもっと複雑な構成にしたかったのですが、今回は繋がりよりも登場人物優先にしたため少し緩くなりました。
話としてはどうなんでしょうね。何か結構自分の事も入っている様な気がします、後半二つは。てか前半二つに自分の事入ってたら結構やばいですよね。うーん、中二つは順番逆にしようかと思っていたのですが、止めました。ネタばれるから。
あぁ。これどうしようかな。別に公表する場が無いんですよね。どこか公表する場を開拓せねば…。
じゃ、おやすみなさい。
   2008.4.6.25:37.


編集上の注意
 これは大学二年の頭に書いたようですね。誰かと電話して書くことを決めたようですが、全く記憶に有りません。んー。土を踏むと同じく携帯サイトから引っ越してきました。
 何人かは大学の友達にも読んでくれる友達がいます。良かったです、友達出来て。んー。
 この話、四重構造なんですよね。あとがきを読む限り。でももう少し上手く書かないと理解できないですね。まぁ昔の話なので許してください。お願いします。


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