時の境界線1

 広く静かな空間に男が居た。男は一つの箱を覗き込んでいた。その箱は男自身が作った物だ。男のいる空間は薄暗かったが、箱の中は明るかった。ずっと明るいままで、暗くなることは無かった。

 この世界ではみんなは常に時計を気にして生きている。時計が導いてくれる、みんなはそう信じて常に時計を頼りに生活してきた。みんな一日に一回、この世界の少し北寄りにある大きな時計塔の鐘の音に合わせて自分の時計のねじを回して時間のずれを直す。
 生活の中ではとにかく時計が大切である。まずは生活で最も重要な鐘の鳴る時間がやってくる。それが0時である。0時になるとみんなは時計のねじを回して時間のずれを直す。そして一日が始まる。2時になるとみんなお腹が空いてくるので1度目のご飯である。ご飯を食べ終わったら4時からそれぞれ仕事や学校が始まるのでそれに間に合うように家を出る。それからしばらくして、10時になるとみんなまたご飯を食べる。そして16時きっかっりに席を立って帰路につく。全員が18時に家の食卓に着き、そして最後のご飯を食べる。22時に寝る。そしてきっかり8時間後、鐘が鳴る。しかしちょうど鐘の時間に起きたのではねじを回せないのでみんなは鐘のちょうど1時間前に起きる。
この時計塔が造られた正確な時は分からない。しかし、古い書物によると今から時計の針が三万五百二十九回転する時間ほど前に作られたようである。その間ずっとこの古い時計は動き続けてきた。時計はいつでも正確だった。みんながこの時計塔の時計の時間が世界の正確な時間であると決めたからだった。


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