時の境界線2

 広く静かな空間で、男はまだ箱の中を見続けていた。箱の中の住民は先程までとは違い分裂していた。箱の奥と手前とで二つに分かれていたのだ。

 世界は二つに分裂した。今から時計塔の時計の針が七百九十三回転する時間ほど前くらいから、みんなの持っている時計が、時計塔の時計と大きくずれる様になっていった。始めのうちは人々の時計が、鐘の音よりも5分ほど早く0時を迎えてしまう程度だったのだが、その三百回転後には1時間早くなり、そしてこの2回転に至っては、人々の時計は時計塔の時計が一回転する合間に2回転するようになってしまっていた。
 世界は二つに分裂した。時計塔の時計は絶対に正確で狂うはずのない物だからみんなの持っている時計が一斉に狂ってしまったのだと主張する集団と、時計塔の時計がおかしくなったのだと主張する集団に。
人々はそれぞれ、自分の信じる時計に従って生活するようになった。時計塔の時計で三百回転ほど前の時点では時計塔の時計を信じて暮らす北とそれぞれの持つ時計を信じて暮らす南に分かれて暮らせば人々は上手く互いの生活時間を合わせて生活出来たので問題なかった。しかし最近では、北の人々は時計塔の時計という一つの時計の時間に合わせて生活しているので社会生活には問題がなかったが、体調を崩す人が続出していた。みんな時計の示す通りに睡眠を取っているのに寝不足になったり、眠れなくなったりしていた。南の人々は体調は崩していなかったが、それぞれの持つ時計は時間が統一されることなく、みんなてんでばらばらな時間に生活をしていたため社会生活という物はなくなろうとしていた。


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