時の境界線3

 広く静かな空間の中で、男はまだ箱を見ていた。いつになれば箱の中身はまた一つに戻るのだろう。しかし、世界がいつも明るいというのはどういう事なのだろうか。男の居る空間はいつも静かだが、薄暗い。

 そしてある日、北と南に分裂したそれぞれの集団は互いに宣戦布告した。しかし、戦はうまくいかなかった。北の兵士は体調不良だったし、南の兵士はそれぞれの時間が違うために集団行動が出来なかった。北の兵士達は時計塔の時計に従わずに、自分達の眠りたい時間に眠り、そして目覚めることにした。南の兵士達は悩んだ結果、一つの時計を選んで、その時計に全員の時計を合わせた。
 戦は長く続いた。そして互いの兵士が元の半分にまで減った頃、時計塔の時計で九百三十五回転、それ以外の時計だとだいたい二百九十三回転くらいかかったのだが、互いに互いの長所を認めて争いを止める事に決まった。北のみんなは南のみんなが体調を崩していない事を、南のみんなは北のみんなが統一の取れた生活を送っていることをそれぞれ認めた。そして、一つの新しい時計が作られた。時計塔である。古い時計塔は早々に壊されてしまった。
 広く静かな空間の中で、男は箱から顔を上げた。歴史は繰り返すが、今回の分裂騒動の収まりは意外と早かったなどとつぶやく。光の或る事は良いことだが、闇が無いというのもまた問題なのかも知れないと思った。この空間には完璧な光も、完璧な闇も存在しない。そして男の足下には大量の箱が転がっている。

 この世界はいつも明るい。暗闇は訪れない。人々はいつしかまた、時計塔の時計の針が示す時間が狂うことはないと信じるようになっていた。今日も時計は一日の始まりを告げる鐘を鳴らす。


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